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特集「M&Aを正しく活用する時代」

第5講 株式譲渡と事業譲渡、その戦略的な活用法

中小企業が成長するためには、資金を受け入れる必要があります

現在の日本は、中小企業の社長の高齢化という問題が大きくクローズアップされています。そのため、日本でM&Aといえば、「事業承継」という連想を呼び起こします。子供や、幹部への事業承継ができない会社の社長が、従業員を路頭に迷わすことがないように、やむなく行う方法として、M&Aが注目されています。

そのため、M&Aというものが、とても、ネガティブなイメージで把握されています。

これに対して、URVグローバルグループは、「夢を見ろ それを形にする」という企業ドメインの観点からM&Aを捉えて、成長企業M&Aに特化して事業を進めています。成長戦略としてのM&Aを活用するということです。この成長企業M&Aは、資本提携とも呼ばれています。

つまり、社長の終わり、「終活」ではなく、社長と企業が更に成長するための手法として、M&Aや資本提携を活用することを提唱しているのです。この方法は、アメリカでは、当たり前の方法なのですが、まだ、日本では一般的ではありません。それを、僕は、経営者を啓蒙して、薦めていきたいと思っているのです。

中小企業の社長さんというのは、皆さん、オーナー社長で自由なのですが、他方で、社長の資金力と信用力には限界があります。しかし、それでは、せっかく成長できる事業も成長させられず、結局、社長の収入も立場も、大きく上昇しません。

家業の領域を出ない企業が大半です。

しかし、多くの社長は、自分の事業に自信を持っていますし、自分と自分の部下の報酬も大企業並みに、アップしたいと思っているはずです。そして、生涯をかけて、一大財産を構築したいという野望を持っているはずです。

そのためには、事業に投下する資金を増やさなければなりません。

そこで、他の資金が豊かな企業から、資金を受け入れ、自分の会社を大きく成長させる手法が問われます。もちろん、相手は、大企業ですから、それを行うためには、しっかりとした経営を行い、堂々と、出資者に事業の成果を報告をする必要があります。

僕は、中小企業の社長が、そのようなことができるようになる経営を指導し、資金を大きく受け入れ、大企業とも互角に交渉をして成長し、堂々と、自分や社員の給与を大きくアップさせ、最終的に大きな資産を作ることを目指していただく、という観点で、経営コンサルティングと、成長企業M&Aを連動させた経営支援を行っています。

資金を受け入れる方法には、株式譲渡と事業譲渡の2つがあります

さて、中小企業が資金を受け入れるなどの目的で、M&Aの方式を利用する場合、その方法には大きくわけて2つの方法があります。

一つは、資金出資者(企業)に、株式を譲渡する方法。
もう一つは、事業譲渡を活用する方法です。

事業譲渡の活用場面

事業譲渡は、会社の中で複数の事業を営む場合、そのうちの一つの事業を譲渡して資金に変え、残った事業に集中するとか、別の事業を立ち上げるための資金に使う、という場合に活用できる方式です。

いわば、事業を選択と集中の論理で整理したり、ある事業を売って、別の事業を起こすなどのイノベーションに利用する際に用いる方法です。

事業譲渡のメリット

事業譲渡は、会社の借入金などをそのまま残して、事業それ自体を、「モノ」として売却する形式です。投資側から観ますと、「モノ」以上の事業の将来価値をそのまま引き継げて、会社の持っている借入金などは引き継ぎませんので、安心して、投資に応じてきます。

そのため、M&Aに伴うデューデリジェンスなどが簡潔にすみます。

売却資金は、会社に入るため、所得に対する会社の納税後の資金を、そのまま次の事業の資金として利用することが可能です。

事業譲渡のデメリット

一方、事業譲渡の方式は、事業そのものをすべて売却する場合にしか使えません。従って、継続して、社長が、事業を継続させて成長させたいという場合には、次に記載する株式譲渡の方法によることになります。

また、事業譲渡の場合、譲渡対象の「モノ」を、ひとつひとつ特定してゆく必要があります。また、その事業に関わる契約に、無断での事業譲渡を禁じる規定が入っている場合が多く、このような場合には、事業譲渡契約の後、クロージングまでに、契約の相手方に、事業譲渡の承諾をえる、あるいは契約を締結しなおすなど、株式の譲渡に比較して、手続きは、煩雑になります。

新株発行による株式譲渡の活用場面

事業承継型のM&A(つまり、オーナー社長が完全に事業から引退するためにM&Aを行う)では、オーナー社長や親族が持っている発行済株式を、投資企業に売却し、その売却金額は、その株主に入ります。その代金のなかの利益は、個人オーナーであれば所得となって、所得税の課税対象となります。

オーナーの保有株を譲渡する方法は、典型的なM&Aの手法で、M&Aの通常の解説書などは、この手法を基礎に解説がなされています。

一方、成長企業M&Aの場合、オーナー社長の株式を売却することもありますが、別の方法が一般的です。

発行可能株式の範囲内で、新株を発行し、その株式を投資家に会社が売却して、資金を資本金等の純資産として入金をいただく方法が使えます。

ここでは、成長企業M&Aで使える、新株発行による株式譲渡という手法について詳しく解説をしてゆきましょう。

新株発行のよる株式譲渡のメリット

ちなみに、オーナー社長保有の株式は、会社を設立した段階の株価ですので、その取得時の株価は、非常に低いのが一般的です。一方、新株発行では、既に会社が営業活動を行い、利益剰余金も毎年積みあがっておりますし、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)による、将来の企業価値を株価に反映させるのが一般的ですので、株価は、かなり高くなります。

その結果、比較的少ない新株数の発行で、大きな資金を調達できる場合が多いのです。マイナー投資(持ち分が過半数に至らない投資)でも、大きな資金を調達して、事業を進めることができる場合もあります。

このような方法は、株主が売り抜けるのでないため、M&Aという言葉ではなく、資本提携という言葉で表現する場合もあります。

アメリカでは、事業資金の借入の場合に、社長が連帯保証をつけるという日本の慣行がなく、そのため、中小企業が、銀行からの借入を行うのが、日本よりも難しいという事情もあって、このような自己資本による資金調達が、非常に多いのです。ニューヨークや、シリコンバレーなどでは、中小企業に投資する投資家と、資金を必要とするベンチャー事業家のマッチングパーティなどが、非常に多く開催されていることからみても、このマーケットが活況であることがわかります。

銀行からの借り入れと異なり、投資を受けた企業は、その原本を返済する必要がなく、業績にかかわりなく発生する金利もありません。

業績に応じた配当を出し、投資家はその利回りを追求しますが、投資を受けた資金の返済も必要ありません。

そのため、調達した資金を、思い切って事業に投資することができます。加えて、投資家は大きな組織であることが殆どであるため、事務所を、中小企業ではとても借りられないオフィスに入れたり、取引先を、投資家の関連で紹介をうけたりと、大きな、シナジー効果を発揮することも、望めます。

加えて大きいメリットは、投資をされた資金は、会社の純資産(主に資本金)と会社の資産(現預金)に仕訳され、損益計算書に影響を与えないため、法人税の益金や、消費税の課税売上にはなりません。つまり、個人の株主が株式を売却すれば、所得に対して所得税が課税されますが、新株発行を行って受けいれる資金は、元本返済や金利の支払いがないだけでなく、法人税や消費税の課税もありません。

つまり、会社は、投資された資金を、返済や税金を考えずに、全額事業用の資金として使えるのです。

これまでの、日本のM&Aというのは、基本的には、オーナー株主が会社を売り抜ける、エグジット(出口)戦略として語られてきました。しかし、成長企業M&A・資本提携という手法は、投資を受け入れた社長が、基本的には、その後も経営を担い、投資を受けた資金と投資家企業のチカラをベースに、大きく、事業を成長させることが目的です。

ですから、EXIT(出口)戦略ではなく、成長戦略のために、M&Aという技術を活用することが目的になります。

新株発行のよる株式譲渡のデメリット

一方、新株発行による株式譲渡のデメリットもあります。

株主の持ち株を売却する株式譲渡によるM&Aは、その収益が株主に入ります。一方、新株発行による株式の譲渡は、投資資金は、会社に入ります。

従って、その資金は、あくまでも、会社が成長するマーケティングやイノベーションには使えますが、株主個人の所得にはなりません。ですので、会社を今すぐに自分のオカネとして現金化したいというオーナー経営者には、この方法は利用できません。

勿論、資本提携を受けた会社を成長させた後で、企業価値を大きくして、最終的に投資会社に買い取ってもらうということは可能です。

会社を、まだまだ大きくし、価値を大きくしたうえで、最終的には、自分の子供に継がせるのでなく、大企業に高いお金で買い取ってもらう、という戦略的な狙いで行うのうが、成長企業M&Aなのです。

続く

本稿の著者

松本 尚典
URVグローバルグループ 最高経営責任者 兼 CEO
株式会社URVプランニングサポーターズ代表取締役 兼 エグゼクティブコンサルタント

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 一般財団法人M&Aアドバイザー協会認定M&Aアドバイザー

日本の大手銀行から、ニューヨーク ウオール街での金融系コンサルタント業務を経験した後、日本に帰国し、国内の大手企業数社の役員の歴任。この間、M&A大国アメリカで、数多くのクロスボーダーM&Aや、TOB案件を纏めあげ、そしてまた、日本でも多くのM&A案件を投資企業側の責任者として纏めた、豊富なM&A実務経験を有する。
2015年にURVグローバルグループのホールディングス会社で、経営支援事業を本業とする、株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を設立。多くの中小企業の経営者の経営顧問や監査役として、中小企業の成長戦略に関わる。
こうした業務の中で、投資企業側の事情と、投資を受ける中小企業側の事情の双方に精通する知識と経験を活かし、成長企業への投資案件に特化した、成長企業M&A事業に進出する。

成長企業M&Aサービスのご紹介

強い成長を目指す企業(成長企業)と、投資によってスピードある新規事業の参入を目指す企業(投資企業)の、資本提携をM&Aの手法で実現する成長企業M&A

成長企業M&A

成長企業M&Aとは、成長期にあるベンチャー企業や中小企業と投資企業を仲介し、飛躍的成長を遂げるために、M&Aという手法で資本提携関係を結ぶ手法です。

URVプランニングサポーターズが提供する「成長企業M&A」で、企業の成長力・資金力を飛躍的にアップし、事業成長の壁を打ち破ります。

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「M&Aを正しく活用する時代」過去の記事はこちら

第1講 世界のM&Aを知ろう

第2講 今、うちの会社はいくらなの?~企業のバリュエーション~

第3講 株主が複数いる企業が行う、M&Aへの対策 ~スクイズアウト~

第4講 M&A買い側企業担当者の心得

第5講 株式譲渡と事業譲渡、その戦略的な活用法

第6講 会社の資金がショートしてから、慌てて調達に動くと大変なことになる!

第7講 M&Aでは、何故PL上の利益よりも、EBITDAを重視するのか?

第8講 黒字が出ている会社のオーナー社長が、M&Aで金持ちになるのは何故か? ~本当の金持ちになるヒトは、所得税の構造に潜む、カラクリを利用している~

第9講 M&Aの世界は、なぜあらゆるところが秘密のベールに包まれているのか?

第10講 事業譲渡をする会社はここに気を付けよう ~そのメリットとデメリット~

第11講 M&Aを考えるすべてのヒトが知らなければならない天王山 デューデリジェンス

第12講 M&Aで会社を売る場合、セカンドオピニオンを求めよう

第13講 M&Aの仲介 専任と非専任 どっちが有利?

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第16講 日本で増加してきた「同意なき買収」 米国に近づいてきたM&Aの今を概観する

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